モズグス様フォーエヴァー ルカとジェローム

ルカの冒険

「断罪編・生誕祭の章」でガッツのいない場所、見ない場所に現れ、物語を支えたのはやっぱりこのルカ姉さんでしょう。アルビオンに流れ着いて娼婦となった浮浪の少女たちを取りまとめて共同体を作り、そのリーダー格に収まっています。
その迷わず即決の判断力、やたら苦労、厄介事を背負い込むキャラクターは熱血マンガの主人公クラス!その影日向のない性格が、“黄金バットさん(仮名)”の加護を呼び寄せ、そして、この物語最大の謎であった“たまごっちさん(仮名)”に好まれて、人生相談も受けるハメになっています!(笑)

ルカ姉さんはとても頭が良い。弁が立つ。疫病で滅びたどこかの村の出身らしいが…村人がこんな賢くなるかな?いやいやいや、この難民窟の“世間”って、村の“世間”と相当違うと思うのです。
逆に街の“世間”には近かったと思うのですが…。にもかかわらず、キャスカと共にアルビオンに流れ着いて、短期間でこの強かさは凄いです。多分、農家といってもそれなりの家に生まれて、お金と学問に触れる機会があったのではないかと思います。それとなく偉そうなのもいい家に生まれたからではないかと思ったりします。

ベルセルク』には、描かれるテーマの中の一つに“現実世界の崩壊”というものがあって、「生誕祭」において再度、“現実世界の崩壊”を表現しようとしたとき、すでに“非現実”にどっぷりつかってしまったガッツではなく、もう一度、まだ“現実世界”に踏みとどまっている“目撃者”が必要でした。
実は、それは、聖鉄鎖騎士団長のファルネーゼさんでもよかったはずなんですが……というか本来はそういう“流れ”のつもりだったと思うのですよ。彼女は、そういう“流れ”のつもりで出したキャラだと思うのです。
実際にファルネーゼさんはラストで自分の信じていたものが全て崩壊し逆に清々とした気分で新たな道を歩き出しています。ガッツと深くかかわり始め、ジワジワと“非現実”を垣間見ている点でも大崩壊を目の当たりにする目撃者に“適任”に思えます。

…にもかかわらず、“たまごっちさん(仮名)”の人生相談を受け、事件の全容を知ってそれを見送る役に選ばれたのはルカ姉さんでした。
キャスカをアルビオンに連れてくる“役”だけ引き受けて、さっさととんずらしてもよかったんですけどねえ。そのせいか、ルカ姉さん、怪異に対する順応力が不自然です(笑)ニーナが非行(邪教)に走ってもそれは尻を引っぱたいて連れ戻す…ま、これはいいとして…問題はキャスカですね。
普通ねえ、周りから魑魅魍魎があふれ出るような娘、どんなに面倒見のいい人も放り出しますよ!?座り過ぎ!肝っ玉座り過ぎですよ!ルカ姉さん!「“魔女”だろうと、“たまごっち”だろうと、ほっとけない性分なんだよ!あたしは!」とか言ってる場合じゃないんですよ!?

…ま、とにかくルカは、この章の“目撃者”という役と、この章のもう一つの物語である“ニーナの物語”において、赤木総一郎と辰叔父ような関係(ちょっと違うか?)の赤木総一郎の方を演じています。ニーナの話を思いついたからルカ姉さんがピックアップされたのか、ルカ姉さんがピックアップされたからニーナの話まで出てきたのかは分かりませんが、「ベルセルク」にある種の方向性を与えた出来事だったと思います。

ジェロームの物語

そしてルカ姉さんの影にかくれて、活躍が目立ってはいませんが、ルカを語るときジェロームの存在も忘れてはいけないでしょう。…………いや、忘れちゃいけないんですって!任務ほったらかしでルカの元へ毎日通っていた聖鉄鎖騎士団のさぼり魔。ルカが“ルカ物語”のヒロインとするならば、ジェロームは間違いなくヒーローです。…………いや、忘れちゃいけないんですって!けっこう重要なポイントなんです。ジェロームは。ルカ姉さんにかこつけて実はこの人の話をしたかったのです。(←え?そうだったの?)

ジェロームは最初、任務をサボってルカの元へ通っているところから登場し、ルカにプロポーズ(といっても妾としてだけど)したりしています。
その揉み上げと眉毛の濃さから、あまり読者の気に止められていないと思いますが(笑)実はかなりいい人で男っぷりも悪くないです。「あんなけったくそ悪い任務やってられるか」というセリフが単に放蕩者の言い訳かと思っていたら、次第にわりと本気で自分なりの抵抗をしめしていた事が分かって来ます。
罪を着せられそうになった子供を助けたセルピコにわざわざ「見直した!」と言いに行ったり、けったくそ悪い任務と言いながら、密告した事に怯えているヨアヒムを「強い者に食われっぱなしってのよりはマシだよ」と励ましたり、かなりいい人です。

そして彼とイシドロがいなかったらガッツはキャスカを助ける事ができなかった。(ガッツとはほぼ繋がりのない人間なのにねえ…物語の絡み方が絶妙だ)仲間のために地位も名誉も無視して、さっと剣を振るったジェロームさん、カッコいいです。使徒もどき二人倒してるしね!
マンガをある程度、読み慣れてて、「ベルセルク」の雰囲気をつかんでいる人なら、本来ジェロームは“いい人になればなるほど死に近づくキャラ”だという話は分かると思います。後半、イシドロと近い行動を取りますが、イシドロは“ここでは死なないキャラ”と分かるし、そうであればなおの事ジェロームは死んでしまうのではないか?という予想って…何となく分かりますよね?“顔つき”からしてそういうキャラなんですよ(笑)彼は。本来。
でも生き残った(笑)終わってしまえば、まるで生き残る事が当たり前のキャラだったように(笑)これも「ベルセルク」において、ある種の方向性を与えていると思います。(これは後述)

ルカとジェロームがその後、どうなったか…というのはちょっといろいろな“その後”が思い浮かんで困ってしまいますが、「幸せに暮しましたとさ」なんていうおとぎ話で締めくくるにはあまりに泥臭く、強か過ぎる二人です(笑)どちらもたくましく生きて行く事だけは間違いないでしょうが(笑)

…もう、登場するなよ!次出たら………死ぬぞ!

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2001/12/09
整形/修正 2011/11/12

  1. モズグス様フォーエヴァー 序文
  2. モズグス様フォーエヴァー モズグス様言行録
  3. モズグス様フォーエヴァー ルカとジェローム
  4. モズグス様フォーエヴァー ニーナの冒険
  5. モズグス様フォーエヴァー そして、作品論へ