私の愛した悪役たち VOL.3

序文

昔から『悪役』に強い憧れのようなものを持っていて、何故か悪い奴らを応援してしまう。悪い事がしたい人間だったのか…それとも彼らが絶対に負けることが約束されてるからだろうか?悪役が何人ひとを殺そうがけっこう平気。悪徳商人が殿様に黄金色のお菓子を贈ろうが、可哀相な町娘を手ごめにしようが、「お、やってるなぁ(笑)」ぐらいにしか思わない。
やっぱり本当に許せぬ『悪』というのは現実の中にいるものだ。それでも、時にはフィクションと分かっていても、「許せぇーん!」と激昂してしまったこともいくつかある。『暗闇仕留人』の『試して候』という話で異国船打ち払いのための実験台として囚人たちを新型大砲の的にしたとき。(あれ、今考えるとめちゃくちゃいいシーンなのに、あの時はやたら怒ってたな?)『アルスラーン戦記』でルシタニアの僧侶が井戸に毒を投げ込んで占領地を放棄したとき。等など、まあ、そこそこにはある。それでそういった「許せぬ悪役」で一番印象に残ってるのが今回の話。

第21回 ガイゾック (無敵超人ザンボット3)

巨大攻撃母艦バンドックから野蛮人キラー・ザ・ブッチャーとメカ・ブーストを操り、宇宙に存在する「悪い考えをもつ生命体」を殲滅するため宇宙をさまよう「破壊する意志」。かつてその“ガイゾック”に母星を滅ぼされたビアル星人こと“神ファミリー”が、第二の故郷である地球のために身を賭して戦う、というのが「ザンボット3」の大まかなストーリ―である。
これだけ聞くと普通のスーパーロボットものに思えるのだが、この「ザンボット3」、子供心にはかなり気分の悪い作品として印象に残っている。何しろ主人公の「勝平」たちに守ってもらってる一般人たちが、それに感謝しないどころか「何もかも神ファミリーのせいだ!」とか言い出すんだよな。確かに僕らも「ウルトラマンは怪獣と戦って建物をぶっ壊してもいいの?」とかツッコんだけどさ(笑)それをモロにやるとこれほど気分の悪いものだとは思わなかった。じゃあ、何故そんな気分の悪い作品をいつも見ていたかというと、要するに「他に観るもの」が無かったんだよね。今思えばすごい『幸せ』だったのかも。

毎回泣けてくるほど空しい戦いをくり返しながら、それでも次第に人々の理解を勝ち取っていく感動的な展開の中で、ガイゾックがとった空前絶後の悪事が、今回の本題「人間爆弾」なのである。人間を生け捕りにして爆弾を埋め込み、人の大勢いるところで放して爆破する、という悪魔の所業。
しかしそれ以上に背中に手術の痕があれば、その人は「人間爆弾」である…と分かったときの人々の別れはいっそうつらかった。(人間爆弾が避難民の中に留まれば他の人々を巻き込むので、人間爆弾だけで別の場所に行くのだ)むざむざ爆発していく友人たちをただ呆然と見つめるだけの勝平が、ガイゾックを絶対に許せないと確信する気持ちにぼくも共感し、その後の最終決戦で仲間たちが“特攻”してでもガイゾックを打ち滅ぼそうとする執念に、ただただ感動した。
ガイゾック星人によって造られた、コンピューター・ドール8号・・・が、主人公の「勝平」たちの最後の敵であったが、本当の“ガイゾック”というのは一体どこにいたのか?ガイゾック星人なのか、それとも彼らさえも滅ぼされたのか?再び地球に現れることはあるのか?そういった意味でも“ガイゾック”は普遍的な『悪』として存在していると思う。

友人に「ザンボット3」って何?と聞かれたら人間爆弾と最終回あたりをまとめて見せる事にしています。うー!しかし、あの盛り上がりは全話見ないと伝わらんのに!12時間も人間を監禁しておく時間も気力も失われてしまったなあ・・・

第22回 ソネット (紅い牙VIIブルー・ソネット

世界を陰から征服しようと目論む、軍需産業の共同組織タロン。(この組織もうほとんど世界を征服していると思える程“裏の力”が強い)主人公である超古代人類のパワーと怨念を内に封印する少女・小松崎ランに対抗するため、そのエスパー部門の情報員に見出され、サイボーグ部門のDR.メレケスのサイボーグ手術をうけたESP戦士の少女。
常人ではとても反応しきれないサイボーグのスーパーボディをその“超反応能力”で最大出力まで引き出し、サイコキネシスを用途によって様々に使い分ける、ダーク・ヒーローとも言うべき存在で、しかも、ランの恋人にして敵であるはずの改造人間バードに恋をしてしまう・・・・
コテコテである。この『ブルー・ソネット』という話、あの頃(70年後半〜80年前半?)のコテコテSFストーリーそのものなのだ。しかし、まあ“ひねくれ者”のぼくだけど、このソネットは気に入ってしまったのです。それは、たぶん彼女の“不幸”がきめこまかに描かれていたからだと思う。何しろ自分の母親に売春を強要され、しかも殺されそうになった娘がタロンのメンバーに「今の世の中は間違っている」といわれてコロッと騙されないわけがない。そしてサイボーグとなり、人間でなくなって初めて『幸せ』を味わう『不幸』。

自らの最高傑作として我が娘のようにソネットを気使い愛情を注ぐDR.メレケスの為どうにもタロンを離れられず、さりとてバードのことを忘れることもできないという板ばさみは見事。何だか『小公女』でも読んでる気分になってくるとこに「博士はすばらしい科学者です」とか、「学校がこんなに暖かいところとは思わなかった」とか、「文字を習ったことが無かったから、それが楽しくて日記を書いただけなの」とか言われた日にゃあ、もう気分はメロメロのメレケス状態ですわ!(笑)この不幸な少女は不幸なまま、ランの超古代人類の暴走を抑えて燃え尽きてしまった。バードと一緒だったのが唯一の救いか・・・・
こーゆーのを、マンガのなかでは『くの一裏切り』といって、わりと古典的な「泣かせ」パターンらしい。しかし、ぼくは他のくの一にはそれほど心を動かされなかったのになあ。(あとわりと印象に残るのは「カムイの剣」の「お雪」さんかな?)やっぱり彼女がESP戦士として、かなりカッコよかったのが、ぼくの琴線に触れたんだな。

『ブルー・ソネット』は打ち切りで終わったらしい。もしきちんと最後まで描かれてたら、この物語最大の『悪役』であるタロンのエスパー部門の局長サグはきっと、ここに記したいキャラになっていただろう。とても残念だ。

第23回 間久部緑郎 (バンパイア)

通称ロック、変装の名人で老人から女性まであらゆる人間そっくりに化けることが出来る。冷血な悪漢で普段から人の弱みを握っては金を巻き上げている。“バンパイア”(ふとしたきっかけで獣に変身する一族)の少年トッペイを巧みに脅してあやつり、大金をせしめようと誘拐計画を立てたのが『バンパイア』という物語の始まりである。主人公のトッペイ少年は人間のときは正直で正義感あふれる性格なのだが、オオカミに変身すると自分を抑えられなくなり「しかも実際に何人も人を殺してしまってる」というところが、この作品をダーク・サイド・ストーリーとして確定づけている。(しかし、不思議と明るいタッチで描かれてるところが、やはり手塚治虫というか、さすが)

悪のカリスマを持つ少年ロックの人格を一言でいうなら「悪いことをするのが楽しくて仕方が無い人間」である。三人の占い師に“王者の予言”をうけ、自分の心の赴くまま犯罪をくりかえし、邪魔な人間を何の躊躇もなく殺していく。トッペイはそんなロックを憎みながらオオカミに変身してしまうと何故かロックの言うがままになる。まさに悪の魅力とでも言おうか、ロックはそんなトッペイの苦悩を知っていて、さらに犯罪事件にトッペイをひきこみ弄ぶのだ。次から次へと起こる予想外の事件に臨機応変に対応していき、ついには“バンパイア革命”に展開していくなか、あくまで自分のために行動しのしあがっていく姿には『悪の痛快』が確実にあった。

しかし、よく観るとロックは大事な時に不運である。もしかしたら、常に利用しつづけたバンパイアと知り合ったこと自体が不運だったかもしれない。自分のたくらみを全て知った上で愛し協力していたかも知れぬバンパイアの科学者・岩根山ルリ子、自分の身を危うくしてまでも殺したくなかった唯一の心の友・西郷風介。彼らを殺してしまったとき、その野望は文字通り“海の藻屑”と消えるのだ。
ロックは物語の当初からバンパイアではないかと言われつづけたが、遂に変身する事は無かった。しかし姿形を変えて人間の束縛を破るのが“バンパイア”なら、人間のままでも人間の束縛を受けぬロックもまた“バンパイア”であったのだろう。

第24回 サイクロプス (コータローまかりとおる!

コータローまかりとおる!』の第3部(10〜16巻)にあたる『D地区編』はコータローシリーズ最大の盛り上がりを見せた、とぼくは思っている。消えた“蛇骨会”の遺産を追って鶴ヶ峰学園の無法地帯『D地区』に単身乗り込む新堂コータローだったが、そこには“サイクロプス”という謎のチームがすでに暗躍していて・・・という前編サスペンスとアクションの読み応えある構成で、誰が敵となり味方となるか分からず二転三転する事態に、ぼくは夢中になってページをめくったものだ。

誰が最後に笑うかわからぬ中、結局最後に全てを掌握したのはサイクロプスだった。そこでサイクロプスのリーダーは自分が、以前コータローに敵対した凶暴風紀委員・砂土屋俊兵の双子の弟・砂土屋竜兵であることを名乗る。
そして、まさに「凶行」と呼ぶべき処刑法を捕らえたコータロー達に突きつける。ロープを巻きつけて首を引っこ抜く断頭台や、仲間同士で殺し合いさせる、記憶喪失となったコータローを首吊りにしてヒロインの真由美に焼けた鉄板の上で支えさせる、といった具合に圧倒的に有利な立場から徹底的にコータロー達をなぶりものにしていく。何故そこまで?・・・というと砂土屋竜兵が愛情や優しさを信じない狂人だからとしか言いようがない。自分が片目を失ったとき(サイクロプスの由来だな)兄・俊兵の目も同じにするため刳り抜いたというほどの!
愛や友情を見せつけられると「反吐がでる!」と言って本当に吐いてしまうのも、あながちギャグではない。しかし、そうやって虐げることによってコータローは記憶を取り戻し、彼らは今まで以上に『愛』や『友情』を確かめ合ってしまうんだな。いやー砂土屋竜兵!『悪役』冥利につきるじゃありませんか!(笑)

ところで!砂土屋竜兵も好きだからとりあえず書いてしまったが、本当の本題は実はそこではないのです。竜兵にもサイクロプスとしての仲間が幾人かいて、その両脇にいたフェンシングの使い手と“おハジキ”の使い手、この二人がけっこう強くてカッコ良かったのだが残念ながら本名も正体もまるでわからない。
実はこの名も無いサイクロプスの二人がぼくのお気に入りなのだ!おハジキ使いは指から弾丸のように、おハジキを飛ばしてコータローを苦しめたし、フェンシング使いは、なかなか不敵な男で、コータローのライバル・天光寺輝彦と実に堂々と渡り合って敗れ去った。だからぼくは、砂土屋竜兵だけではなくチームとしての“サイクロプス”がすごく気に入っているのだ。

第25回コロサス神父 (魔界都市ハンター)

新宿に現れた怪しげな老人“神”を捕らえて、その能力で世界浄化を目論むダーク教団の伝道師の一人。巨大な(あるいはちっぽけな?)“神”の進化の実験場『魔界都市新宿』そこに吸い込まれるように集まった防衛庁・超戦士隊とダーク教団の熾烈な戦いと、その戦いに否応無く巻き込まれていく念法の使い手・十六夜京也の物語が『魔界都市ハンター』の主な内容だが、当時の僕は、たちまちこの八方破れなバトルマンガの虜になってしまった。
当然『悪役』好きの僕はダーク教団に夢中で、戦車なんていう無機物も『虜』にしてしまう吸血鬼・尼僧ブライドや、肩についた骸骨が毒をまきちらすギルマン神父、干し首を使うだけなのに何故かリーダー面のロダン神父みんなワクワクして、面白くて大好きだった。(でもダーク司教はちょっとつまらなかったかな?)・・・で、本題の“コロサス神父”がどんな奴かと言うと、身体が真中からパックリ割れて中に何でも食ってしまう“邪妖精軍団”がぎっちり詰まっている、という不気味この上ない大男なのである。
でもぼくは、このコロサスを応援しまくっていた。何故か?不幸にも彼の宿敵となった“次元刀”の使い手、超戦士・有川副長がもう滅茶苦茶強くてコロサスは負けまくる。何しろあなた次元刀ですよ次元刀!空間そのものをずらして切り裂くこの世に斬れぬ物のない能力を前に、たかが邪妖精軍団のコロサスに一体どうしろとうのか?
そう!逃げるだけだ!!やるだけやってダメだったら、何の未練も無く巨体を揺らしてさっさと逃げてしまう、そのコロサスの姿形に似合わぬ「すっとぼけた」性格がぼくは好きで、超戦士もダーク教団も次々戦死していく展開の中「死ぬな!コロサス」と拳を握って応援したのだ。でも同時に諦めてもいた、美男美女が平気で凶弾に倒れるこの物語でコロサスみたいな「いかついオッサン」が生き残れる道理はないと。
ところが何とダーク教団は壊滅したにもかかわらず、コロサスは最終回まで生き延びてしまったのだ!地球人の代表として宇宙へ旅立つ京也とさやかを「行ってくれ!オレたちのために!」と見送る人々の中に混じって、あの大きな口をにっこりさせて惜しみない拍手を送るコロサスに、ぼくはひたすら感無量だった。ありがとう『魔界都市ハンター』!

第26回 バッファローマン (キン肉マン

超人オリンピックの優勝者・キン肉マンに挑戦した“七人の悪魔超人”のリーダー格。ぼくが『キン肉マン』でベストファイトを選べといわれたら「キン肉マンvsウォーズマン」と「ウォーズマンvsバッファローマン」と「バッファローマンvsキン肉マン」の巴戦を挙げるだろう。
バッファローマンは一千万パワーの超人強度を誇り、キン肉マンとぎりぎりの死闘を演じたウォーズマンを一蹴して、キン肉マンに戦いを挑む。その戦いの焦点は、キン肉マン最強の必殺技・キン肉バスターをバッファローマンが如何に破るのか?に絞られていた。このときの話がぼくは大好きなのだ!
「オレは“キン肉バスター破り”のめどがハッキリ立った。それはキン肉バスターは数字の「6」の技ということだ」「何だと!バッファローマン、ワケのわからんことを!」「ウソだと思うなら試してみればいい」「のぞむところだ!キン肉バスター!」ここでキン肉バスターをかけられたバッファローマンは身体をひっくり返して逆にキン肉バスターをかけ返してしまうのだが、そのときのセリフがこれだ!
「フフフ『6』をひっくり返すと・・・『9』になる!」つまり、ひっくり返すことの謎かけの答えらしいのだが、何のことか分からんでしょう?僕も何のことだか分からなかった。しかしそのセリフが当時のぼくには堪らなくカッコよく、説得力のある言葉に聞こえた!

作者の“ゆでたまご”という人(たち)は、とにかく「力技の説得力」の達人で、たとえば100万パワーの超人ウォーズマンバッファローマンに対抗するためとった最期の手段が、まず両手に「ベアークロー」を出し「100万パワー×2で200万パワー!これにいつもの2倍のジャンプを加えて200万パワー×2は400万パワー!そしていつもの3倍の回転を加えれば・・・バッファローマン!貴様を上回る1200万パワーだ!」と叫んで光の矢となってバッファローマンに襲いかかっていた。コンピュータ超人とは思えぬドンブリ勘定は別として、最後の力を振り絞ってバッファローマンに挑むウォーズマンの気力がヒシヒシと伝わってくるとてもいいシーンだった。

それを紙一重でサッとかわしてしまうバッファローマンがカッコいい。キン肉マンとの決着で、力を失い新キン肉バスターをかけられでもなおキン肉マンにキン肉バスターを強引にかけ「こ・・こいつ化け物か」と言われながら再度キン肉バスターをくらってしまうバッファローマンがカッコいい。もしかしたらこういう「力技」のマンガはもう見られないかもしれない。

第27回 ドロンボー (ヤッターマン

言わずと知れた『タイムボカン』シリーズの三悪人。次から次へと主人公たちは代替りして行くのに、小原乃梨子八奈見乗児たてかべ和也、さんらが声を当てる悪役トリオはそのままレギュラーとして居座りつづけシリーズ通しての『主役』と言えた。なら初代の“ガイコッツ”で書けと言われそうだが、ぼくの思い出はどうしても“ドロンボー”なんですよ。

ヤッターマン』は泥棒の神様・ドクロベイにそそのかされて、世界を牛耳れるほどの大金塊の隠し場所を収めたドクロストンを手に入れようと毎回世界中を飛び回るドロンボー一味と、それを阻止せんとする正義の味方・ヤッターマンの飽くなき争奪戦を描いたものだが、特筆すべきは、(1)ドロンボーのインチキ商売→(2)ドクロべーの指令(そしてそれを「もしかしたら?もしかして?もしかするぞ!」で毎回嗅ぎ付けるヤッターマン)→(3)ドクロストンの所在→(4)メカ戦&ゾロメカ(ここがヤッターマン最大の見せ場!)→(5)ドクロベイのお仕置き(そして富山敬さんのナレーション「がんばーれヤァッタ〜♪ヤータ・ア・マ・ン♪」)と、この毎回全く同じパターンを延々109回にわたって放送しつづけたという事実。(「ヤッターワン大破」と「最終回」という事件があったが、このパターンが崩れるほどではなかった)

ところが、これが全然飽きないんだ!制作したタツノコプロのギャグセンスと上記した声優さんたちの熱演が『マンネリ』の面白さを極限まで発揮し、その後のシリーズを決定づけた。山本正之さんの作曲した数々の名曲もよかった。あのカッコいいオープニングと三悪熱唱のエンディング、“おだてブタ”や“ドッチラケ人形”そして“ゾロメカ”、個人的にはドクロベイ(声:滝口順平)の「アカポンターン!」や負けたドロンボーが三人自転車にのってる時の絶妙の掛け声「エッホ、エッホ」、毎回「これを見たらもうしあわせ」というものが盛りだくさんのいい作品でした。

第28回 マ・クベ大佐 (機動戦士ガンダム

機動戦士ガンダム』は、その後のアニメ界で『リアル・ロボット時代』といえる一時代を作り上げたパイオニア的作品といえる。しかし『ガンダム』自体はまだ『スーパーロボット』隆盛の時代で当然、リアル・ロボットなどという概念があろうはずもなく、(子供向けアニメとして)やたら冒険的なストーリーを創ったりするもんだから、時々その反動で「スーパーロボットガンダム』」としての体裁を保とうとするエピソードを入れたりしていたのだ。そのあおりを一番くらったのが今回の人物「マ・クベ大佐」である。

マ・クベ大佐はキシリア・ザビ直属の部下でジオン地球侵攻軍の資源採掘拠点“オデッサ”の総指令である。何やら骨董品を集めるのが趣味(あるいはキシリアの趣味?)らしい。
ぼくがマ・クベを気に入るようになったきっかけは、彼の行動のアンバランスさにある。マ・クベは基本的に“ずるい”奴で、いかにも将校肌。兵を消耗品としか思っておらず、不利になったら「水爆撃つぞ」と脅かし、しかも実際に撃つ。そんな大局的な戦いをする典型のような男が前線で自ら戦うことがあるのだろうか?それがあるのだ!
アッザム」や「ギャン」を駆って、奴は出撃した!!キシリアにいいカッコ見せたかった」と言えば、それまでかもしれない。いや絶対そうだろう(笑)!しかし、シャアやガルマのように自ら出撃してしまう「英雄気取り、若さ爆発野郎とは違う」というのがマ・クベの役どころだったはずだ!それが一体なぜこんなことになってしまったのか?
ガンダム』がスーパーロボット物だったからとしか言いようが無い。ああ!でもキシリアアッザムに乗って負けてオタオタしてるマ・クベもかわいい!!・・・そんなわけでぼくはマ・クベが好きである。

しかし、マ・クベにはさらに後日談がある。『ガンダム』終了から5年が経ったある日、アニメ誌を読んでいたぼくの目に『Zガンダム』制作発表の記事が飛び込んできた。その中で富野監督は「『ガンダム』といってもTV、映画、小説などあるがどの続編か?」という質問に対し「基本的に映画版でいこうと思います」と答えていた。要するにシャアが確実に生きてる話ということだったんだろうが、ぼくは別のことを考え胸をはずませた。
「なにぃ?じゃあ『テキサスの攻防』がないのか!?なら、マ・クベも生きてるんだね。やったぁ!」・・・ところが、その『Zガンダム』、アクシズネオジオンは出てきたのにマ・クベは一向に現れない。それどころか何やら正体の知れぬ女人がミネバを操っている始末。ぼくはTVにツッコんだ。「なんだ、このミンキ(ピ―――ッ)は!?ミネバの横にいるのはマ・クベだろぉ!?」時代も下りリアルロボットが定着したこの頃ならマ・クベの狡猾さも光ったろうに(涙)

第29回 ハイネル (超電磁マシーン ボルテスV)

角の有無が階級のすべてを決定するボアザン星の地球侵略軍総司令。角がないために失脚し、労奴と共に帝国打倒に立ち上がった皇位第一継承者・ラ・ゴールの実子で、角があるため変わらずに皇位継承権を持ちつづけるハイネルは、現皇帝のズ・ザンジバルの目の上のコブであり、(戦死することも期待の上で)左遷同然に地球侵略に向かわされる。
しかし、当のハイネル自身は「反逆者の子である自分に名誉挽回のチャンスを下さった」と喜び、ザンジバルに絶対の忠誠を誓い、はりきって地球征服に邁進するという、メチャクチャいい人。

今回、ハイネルを『悪役』として取り上げたわけだが、ぼくとしてはむしろ、その後一人だけちゃっかり地球に逃げのび、剛健太郎と変名して美人の後妻・剛光代とぬくぬく三人子供をこさえて(しかも、さらに言わしてもらえば次男・大次郎は光代さんの子供ではないな?と思っている。体格がラ・ゴールとも光代とも極端に違うし奴だけ鹿児島弁だ!)ボルテスVを造ってる、ラ・ゴールの方がよっぽど『悪役』である。結果として血を分けた兄弟同士が合い争うという悲劇が『ボルテスV』の大きなポイントになる。

何だかんだいっても地球侵略の『悪役』のため失敗続きではあったが、部下のルイ・ジャンギャル、ド・ズール、リー・カザリーンを率いての毎回前向きな作戦計画は頭の下がる思いだった。
その中でちょっと面白いエピソードがある。「調べてみたところ、面白いことがわかりました。地球人には何と『愛情』があります」と科学部門担当のド・ズールが発言し、そこに付け込む計画を立案する。するとそれを聞いた一同は大笑いをするのだ。ズールは真っ赤になって「確かな事実だ!」と反論する。
その時のハイネルのセリフがこうだ。「下等な哺乳類である地球人に、親を慕い友を思う気持ちがあるというのか!?」それを聞いたぼくは何か妙に感心してしまった。今まで「『愛』などという下らぬ感情は持たない!」と言い放つ『悪役』はたくさん見てきたが、(そして、その嘲笑った『愛パワー』のまえに敗れ去ってしまうんだよな)「『愛情』とは高度な知性体であるボアザン星人にのみ許される感情だ」というハイネルたちの主張は(ゴリラのようなジャンギャルや、妖怪もどきのズールにも『愛情』があると言っている点においても)非常に新鮮で『ボルテスV』を創った長浜忠夫さんの只ならぬセンスと奥深さがうかがえる。

第30回 無七志 (アストロ球団

かつて巨人軍にボロクズのようにこき使われ、再起不能、廃人となった選手を親兄弟に持つ超人的な野球選手が集まり、巨人軍に復讐するためにのみ結成されたブラック球団。彼らは沢村栄治の魂を受け継いで誕生した超人球団であるアストロ球団に巨人壊滅の前哨戦として戦いを挑むのだが、そのブラック球団の殺人エースとして登場するのが無七志である。
彼の投げる「殺人L字ボール」はハッキリ言ってすごかった!(不気味だが)何の変哲もないスローボールをジャストミートした瞬間、ボールは弾き返されることなくバットを伝って高速回転でバッターの脳天を強襲し、相手を死に到らしめるという恐怖の殺人球!なのだ。
この『アストロ球団』というマンガ、敵方の選手は野球そっちのけでアストロ球士たちを「殺りにいく」奴が続出するのだが、無七志はその第1号にあたり(ニセモノではあったが)アストロ・ツーである上野球二を本当に葬り去っしまう。
それだけに強烈なインパクトを持った殺し屋だった。しかし、殺人L字ボールに致命的な欠陥があった。それはボールが伝わらないように変えたビリヤード打法でチップするとL字ボールは今度はキャッチャーに容赦なく襲いかかるのだ!これによって壊滅的な打撃を受けたブラック球団はあえなく惨敗してしまう(爆笑)。

しかし、まだ殺人L字ボールが敗れたわけではなく、無七志は今度は打撃の神様川上監督と対決する。無七志を欲した川上にブラック球団の監督「荒巻」が出した入団させるための条件で、本当は長島茂雄と対決のはずだったのだ。
しかしここで球界の至宝を失うわけにはいかないと「この勝負川上哲治がうけて立つ!」と来るところがカッコイイ!川上カントク燃える!そして見事、殺人L字ボールを破るのだが、その対決が・・・うぷぷっ、少年マンガ史上に残る名勝負だよ!しかし巨人に入団した無七志は打倒アストロ球団に燃えるも、再戦の機会を与えられることなく、アストロ球団は日本野球界から永久追放され、連載は終了してしまった。

第30回+α 川上哲治
アストロ球団』に登場する川上監督は実在する人物にもかかわらず、アストロ球団を直接永久追放にし、8人目の戦士・峠球四郎を巨人軍に引き込んでアストロ球団が分解するよう仕組んだり、「ブラック球団とアストロ球団の二球団ともつぶれる!球界の星は巨人軍だけでよいわ!」と高笑いしたり、とにかく巨人が勝つことしか頭にない人で「ここ」に書かれた人々に勝るとも劣らぬ堂に入った『悪役』っぷりだった。(笑)

1998/06〜07月頃?
整形/修正 2011/11/27