迫害される物語 『妖怪人間ベム』

妖怪人間ベム』という作品を覚えている人は、非常に怖い記憶と共に覚えていると思う。
TVアニメの草創期に作られた、独特の雰囲気と世界観、そして優れた脚本力を持った名作。ベム、ベラ、ベロの三人の妖怪人間は、はっきり言って人間の姿の時も怖いのだが、正体を現すとこれがもう果てしなくショッキングに怖い!ちょっと子供には耐えられないんじゃないだろうか?という怖さで、如く言う僕も、ベラが正体露わに暴れまわった日になんざぁ、腰が抜けて動けなくなる程、ビビリまくってしまっていた。

そんな思い出深い作品だけに、これのLDボックスが出てるとなったら取るものも取りあえず購入に踏み切った。すでに長い歳月が、自分から“あの怖さ”を奪い去ってしまっていたことは再放送を観て分かっていたことだが、それでもドキドキとLDプレーヤーをかけた。
記憶に残っている人は、下記のアバンタイトルの文句で、ご一緒にイメージして欲しい。

それは、いつ生まれたのか誰も知らない。
暗い、音のない世界で、
一つの細胞が分かれてふえて行き、
三つの生き物が生まれた。
彼らはもちろん人間ではない。
また、動物でもない。
だが、その醜い身体の中には、
正義の血が隠されているのだ。
その生き物…それは…
人間になれなかった妖怪人間である!

何度も何度も観てきた、あの名調子。そしてタイトル!

…へ?何これ?決定的に何かが欠けた、明らかにデジタル編集と分かる画面。

実は第4話に『せむし男の人魂』というタイトルがある。メーカーの某社はこの放送自粛用語の入ったタイトルを『人魂』に書き換え、その際の編集の“不自然さ”を消すために全26タイトル全てを、このデジタル修正画面に差し替えていた。本当のタイトルはこれ(↓)

…大して違わないじゃん。この人何をこんなにこだわってるの?と思った人いますか?すみません。僕はこだわります。見て分かる通りこれは手書きである。タイトルの書き口にまでこだわった制作者の魂を、この某社は何の権限で改ざんしているのか。

…てな話を以前も書いたのですけどね(笑)実はちょっと前に、DVDボックスで『妖怪人間ベム』が出まして、この目で確認したわけではないのですが、このDVDソフトまでも、あのタイトルのままプレスされていると聞きました。
今、何かと昔のTV作品がDVD化されています。中には「え?こんなのソフト化しても買う人はよっぽどの物好きじゃないの?」と思えるようなものまでソフト化されているのは、単に流行という事もあると思いますが、それ以上にフィルム劣化の憂き目に合う、数々の作品たちを一刻も早く、デジタルデータに換えて救ってやろうという作業であると思います(そうだよね?)。送り手は勿論、受け手のおたくも当然それを暗黙のうちに了解して、この事業を成り立たせるため財布と相談しながら、この状況に泣き笑いしているのです。

そのDVDの『ベム』がこれ…ということは『ベム』のデジタルのマスター・データはこれ…ということになってしまっているという事なのです…………あうがぁぁぁああああ!!?(←暴れている)
なんで、この某社は『人魂』の回の修正を余儀なくされたとしても、修正をこの回のみとすることができなかったのか。今回はこの件について弾劾して終わりたい。私は非常に根に持つ人間ですよという事です(笑)

怪奇大作戦大全』という本を購入し、“狂鬼人間”の回がやはり欠番となっている事をあらためて知る。他のメーカーについては、それなりに毅然とした態度をとってくれているようなので、意見の違う者同士、その中の交渉で守っていくしかないのかも知れない。それでも一言。
現在の価値観で、昔の作品たちを裁くのはやめて欲しい。

2001/10/14
修正(タイトル/背景色等) 2011/11/05